大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和38年(く)13号 決定

少年 W(昭二二・五・一九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の理由は、申立人名義の抗告申立書に記載するとおりであるが、要するに、原決定の事実誤認と処分の著るしい不当を主張するものである。しかしながら、少年に、保護者の正当な監督に服しない性癖のあることならびに正当の理由がなく家庭に寄りつかないことは、原決定が虞犯事由を摘示するに当つて引用している宮城県児童相談所長からの昭和三八年六月六日付児童送致書中の送致を必要と認める事由の項に記載している事実によつても、既に明らかである。現に、少年が、本件の前にも、昭和三七年一二月一二日仙台家庭裁判所で窃盗の非行で不処分決定を受けたことがあることは記録上明らかであるし、申立人自身も、仙台家庭裁判所からの昭和三八年六月六日付保護者照会に対する回答の中で、少年に金品持出、家出、盗みぐせのあることを認め、前後五回にわたつて家出届をし、うち二回は警察署の保護を受けているので、今回も、少年を帰宅させたところで、以前と同じことをくりかえすのが目に見えているから、施設に収容するか、それとも、他にあずけるか、どうしてよいやら迷つている旨を回答している、したがつて、原決定が、以上の事実に基いて、少年に対する前記の虞犯事由があるとして保護処分を決定したことは正当で、所論の事実誤認は存しない。つぎに、本件は、初め、申立人が宮城県中央児童相談所に児童福祉司をたずね、少年が非行を反覆して、親の手に負えないから強制的にどうにかしてもらいたい旨申し出たため、同児童福祉司が家庭裁判所に相談するように指示し、その結果虞犯事件として仙台家庭裁判所に係属するに至つたことは、記録上明らかであるが、少年の年齢、性行、虞犯事由の程度、家庭環境を考慮すれば、今すぐ、少年を教護院、養護施設または少年院に送致するよりは、しばらく在宅のままで保護処分に付することが、少年の将来のためにも最も適当な措置と認められるのであつて、原決定の処分は、まことに正当である。当裁判所としても、申立人ならびに家族の者が行き届いた愛情を以て少年を善導して、健全な育成のため、いつそうの努力を尽すことを要望するものである。抗告は理由がない。

よつて、少年法三三条一項後段によつて、本件抗告を棄却して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤寿郎 裁判官 斎藤勝雄 裁判官 杉本正雄)

参考二

児童送致書(昭三八・六・六 仙台家裁所長あて宮城県中央児童相談所長)

下記児童を児童福祉法第二七条第一項第四号の規定により貴所に送致します

児童

本籍地 福島県○○市△△○三丁目二七三

現住所 仙台市○○一○○の五

昭和二二年五月一九日生(満一六歳)

保護者

現住所 仙台市○○一○○の五

○辺○一

年齢 五〇 続柄 父の長男 職業 会社員

送致を必要と認める事由

昭和三六年○月、本児は虚言癖があり、父の財布から一、五〇〇円、一万円、一、〇〇〇円等持出し、また学校では体操時に教室に入つて三〇〇円等盗つたことがあり、また度々金銭がなくなつた事件があつたが白状しなかつた。交友関係も悪いということで取扱つたが三七年には警察から家庭裁判所に送致されたので、当所の取扱いは中止していた。三八・△・二二よりアレビヤジン(〇・一g一×一)を投与して来たが、顕著な効果はまだ見られない段階である。昭和三八年○月○○日家出して東京上野署で保護され、父親が引取りに行つて一五日に帰宅したが、二〇日にまた家出して、△△市○○町の生母の実家(○藤○ま方)に行つた。二六日一度仙台にもどつたが家には入らず、二八日転出証明書を持つて再び△△に行つたが×月五日にはまた仙台に帰つている。この間大阪生れと称する吉田某少年(本児の供述)(一六歳位)が本児に旅費を与えているらしく、上野でも仙台、△△でもその少年と連絡をとり、×月九日には上野で会う約束をしていると云つて居り家庭に落つかず、非行を犯すおそれがあるので、送致いたします。

本児の身柄は現在(三八・△・六午後五時より三八・×・六午後五時まで)仙台北警察署に一時保護中

参考事項

知能 鈴木ビネーIQ八六 MA 一二:〇(三六・一一・二九検)

性格 適応性に乏しく、依存的、攻撃的、自己弁護的反応を示す。

健康状態 脳損傷の疑

備考

児童福祉施設での効果は期待出来ない。

参考三 抗告申立書

抗告申立書

仙台高等裁判所御中

昭和三八年七月六日

抗告申立人○辺○一

少年W

昭和二二年五月一九日生

私は昭和三八年七月二日仙台家庭裁判所において保護観察処分決定の言渡を受けましたが下記理由によつて不服ですから抗告を申立てます。

抗告の理由

一、この少年は毎年四月五月頃に精神状態が不安定になり家出の癖があり、今回も一旦家に戻つたが再び家出をする怖れがあり、家庭での保護が困難な状態であつたのでこれが保護と併せて精神衛生面からの調査、鑑別を特に御願いしたのが趣旨であつたが審判の結果は事実の誤認に基くものと言わざるを得ない。

二、家庭状況を調査されるに際し私は前項が今回の趣旨であることを申し上げ強く御願いし又今日迄の経緯を縷々申し述べたのであるが、審理に当つては全く斟酌されることなく事実が非常に歪められて一方的に審理が進められた感を深くしたことは遺憾である。

三、保護処分の決定を言い渡す際にしては少くとも、その趣旨内容の説明があつて然るべきであつたと思われるが、審判官から言い渡しがあつて審判官が退席された後に調査官から、その内容を聞かされ、期待と全く相反することが初めて分つたことは甚だ遺憾である。

四、抗告の申立てについてもその場で教えるべきが当然であつたと思うが保護観察所に不服の意志表示をして初めて抗告の申立が出来ることを知つた次第で全く不親切な扱と言わざるを得ない。

五、保護処分の決定をするについては、これが裏付となる罪又は事実があるべきで、それを示されるべきであると思われるが、それが明示されなかつたのは全く遺憾である。

以上により今回の処分決定には重大なる事実誤認があり不当な処分決定と考えざるを得ないので再審判を御願いする次第です

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例